boid paper vol.3 特集:リム・カーワイ 今とここの間へ
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boid paper vol.3 特集:リム・カーワイ 今とここの間へ
2026年3月20日発売予定
A5判/本文88ページ/リソグラフ印刷/1800円(税込)
マレーシアに生まれ、大阪を拠点に日本、中国、香港、バルカン半島などで映画を製作してきた映画監督リム・カーワイ(林家威)。50ページを超えるリム監督のロングインタビューと、豪華執筆陣による批評・エッセイからその作品世界に迫る大特集。
寄稿:相田冬二、井戸沼紀美、ヴィヴィアン佐藤、川口敦子、五所純子、千浦僚、筒井武文、暉峻創三、濱口竜介、三宅 唱、山﨑紀子(シネ・ヌ―ヴォ支配人)
<エディトリアル>
共有なき者たちの共和国~Dear America
樋口泰人
プラハとウィーンとブダペストは頑張れば一日で回れるくらいの距離だが言葉も文化も全然違う。その近くて遠い感覚、「本当に近い距離の中に違う言葉が三つあって、僕にはそのどれもわからない。その感覚を一度味わうと病みつきになります」とリム・カーワイは言う。それはまったく違う者同士がお互いに関わり合うことなくすぐそばに暮らしすれ違っているその風景を旅人として見る感覚、というふうに言い換えられるだろうか。「パラレルワールド」とも彼は言う。同じ場所同じ時間に異質な者たちが混在するだけではなくそのそれぞれがそれぞれの場所と時間を独立して生きている。それらが混ざり合い新たな文化を生み出すというよりも混ざり合わずただすれ違う。
リム・カーワイの映画を観ているとそんな風景は世界のどこにでもあるように思えてくる。北京にも大阪にもバルカン半島にもパラレルワールドはあり、旅人を困惑させる。誰に強制されたわけでもなく自ら望んだわけでもなく案外すんなりと棲み分けられたその世界と世界の姿はそのそれぞれを見ている限りにおいて不自然には見えないわけだからわれわれもまた似たような世界を生きているということになるのだろう。もちろんその中に暮らしていてはその姿は見えず、旅人だけがそれを知る。「シネマ・ドリフター」を自称するリム・カーワイは常にそんな世界の姿を見続けている。
だからその映画の中に投げ入れられた「旅人」だけがフィクションである。「映画」というフィクションと言ってもいい。世界と世界の隙間、時間と時間の隙間、空間と空間の隙間、時間と空間の隙間に旅人は入り込み迷い歩き回り、そのことによって世界の内側にいる人間たちに世界の隙間の風景を見せることになる。それはその世界の人にとって思わぬ事故のようなものとしてあるはずだ。閉め忘れた扉から一羽の鳥が舞い込んでくるとでも言ったらいいか。大したことではない。大惨事が起こるわけでもなく世界がひっくり返るわけでもなく何なら死んだ人間も当たり前のように生き返り世界は相変わらずで似たようなことが繰り返される。だがそのほんのちょっと閉め忘れた扉から入った鳥の記憶はその世界のどこかにとどまり続ける。その留まり続けた時間の層がいつの日かその世界の時間を狂わせるのだ。われわれは気がつくと鳥の視線を獲得している。その先には思いもしない壮大でマジカルな風景が広がっている。
まさにそれこそ映画を観ることではないかと言いたくなるその一瞬、「ディス・マジック・モーメント」とともにリム・カーワイの映画はある。世界と世界の壁を壊すのに力も武器もいらないただ映画を観て鳥の視線をわれわれが獲得するだけで十分だと、ハリウッド映画は語り続けてきたのではなかったか。あるいはドル紙幣の裏側に描かれた白頭鷲が語るのもそんな物語ではなかったか。1ドル紙幣にジョージ・ワシントンではなくリム・カーワイのイラストがその表側に描かれていたら世界はどんなに平和で楽しいものになっただろうか。そんな妄想のような現実をわれわれはすでにどこかで生きているはずなのだ。
Joanna Connor「Dear America」を聴きながら……
<目次>
【共有なき者たちの共和国 リム・カーワイ インタビュー】
・偶然を必然に変える――『どこでもない、ここしかない』『いつか、どこかで』
・Everytime, Everywhere――『カム・アンド・ゴー』『あなたの微笑み』『ディス・マジック・モーメント』『すべて、至るところにある』
・Before All These Years――子供時代~日本・中国への留学
・北京流れ者と実現されなかった夢――初期短編4作、『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』
・ここではないどこかで――『マジック&ロス』『新世界の夜明け』『恋するミナミ』『深秋の愛』
(聞き手・構成=樋口泰人、作品解説=千浦僚、黒岩幹子)
【寄稿】
相田冬二 「それから…」に始まり「それから…」に続く――リム・カーワイの未来
ヴィヴィアン佐藤 ざわつく空間、蘇生する身体――位相の異なるものたちの邂逅
筒井武文 三部作の映画作家 リム・カーワイの旅
山﨑紀子(シネ・ヌーヴォ支配人) リムについて
五所純子 四つの断片とその余波
濱口竜介 After all these years… そして今
暉峻創三 リム・カーワイと大阪
川口敦子 『深秋の愛』に見る映画魂の振幅
三宅 唱 リム・カーワイと斉藤陽一郎
井戸沼紀美 連載「ぱたりラップトップ」番外編:『ディス・マジック・モーメント』追体験記?




